苦節恋遍歴

喫茶店にて

　秀一は露骨に当て付けられたので踏んだり蹴ったりといった心境になり自棄糞になって自虐的な洒落を開き直って言った。
「つまり何かい！僕は天然石じゃないって事かい！」
　突然、声を荒げた彼に奈美は面食らって反応出来ず、「えっ？」と聞き返すと、秀一は自棄糞になっていた勢いで、この女、こんな洒落も通じんのかと敢えて馬鹿にして掛かり、「だからさあ、やっぱり天然石じゃないのかって聞いたの！」と舌足らずの説明になったので奈美は勘違いして、「やっぱりって何よ！失礼ねえ！」とぷんぷんすると、秀一は、この女、ほんとに馬鹿だなあと馬鹿にした儘、「いやいや、宝石の事じゃないよ」と言った後、どうしても洒落で押し通そうと、「こう言えば分かるかなあ・・・」と言ってから、「紛い物なんて売り付けるなって話だよねえ」と更に自虐的な洒落を言ったものだから奈美は更に勘違いして、「何よ！紛い物って！安物だからって酷いじゃないの！ほんとに失礼しちゃうわ！」とかんかんになってしまい、秀一は怯みながらも、アレゴリーを込め過ぎた、この女にはちと難しかったかと猶も馬鹿にして、「いやいや、だから宝石の事じゃないよ・・・」と言った切り、それ以上説明しようとはしなかった。