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秀一は奈美が話している間、彼女の悪辣たるあざとさに唖然としていたが、最後の言葉に流石に腹が立って、「おいおい、ちょっと」と言って立ち上がろうとすると、「あっ、いいのよ。川上さん」と奈美は言いながら彼の昂ぶった神経を静めるべく自分の美貌を使って媚びる様に両腕を伸ばして行き、彼の眼前で両手を左右に振って彼が立つのを制して、「こんな形でお勘定を払わせたら済みませんわ。お気の毒だから私が身銭を切ります。良かったら私の分もお召し上がりになって、御ゆっくりしていらっしゃれば良いわ」と彼の神経を昂ぶらせない様に言った積もりが却って慇懃無礼になり且つ勝気な高慢女にありがちな上品に気取った、それでいて子供でもあやすかの様な口調になってそう言うと、踵を返し、伝票を持った右手で口を押さえ、笑いを堪えながらレジの方へすたすたと去って行ってしまった。
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