7人が本棚に入れています
本棚に追加
「みんなで協力してここを脱出する方法を考えようぜ!」
シザースに変身していた奴が言う。
二人も首肯しているあたり、“今の”此奴等の言葉は本心に近い。だが、また極限状態に陥れば仲間割れの果てに哀れに死滅していくのだろう。
よほど疲れたのか、この廃墟で彼らは仮眠を摂ることにしたらしい。
一応一人が見張りに立つ交代制を考えただけまだ お脳がお花畑というわけではなさそうだが。
「…見張りの意味がないだろう」
こちらがこっそり出て行ったのもまるで気づかず、寝ずの番をしている石田という先程インぺラーに変身していた男。
他の二人は間抜け面を晒して眠っている。
それを見届けると私はとある場所と交信を開始する。通常の電子機器は機能を成さないが、組織の技術とは恐ろしいもので支給されたデバイスは、鏡面世界でも問題なく機能していた。
「ひとつのグループと接触した。どうする?様子見か?それとも…」
『------------』
交信先の主もよほど鬱憤が蓄積っていたのか私のシナリオよりもエグい提案をしてきた。
「了解した。貴方も随分苛々していたんだな」
ほくそ笑む私の声色に向こうも苦笑した。
交信を切断すると、私も汚れた毛布に身を包む。
戻ってきたことにも気づかない石田。…番などせずに寝ればいいのに。無意味な行為ほど、このシリアスな場面で見ていて滑稽なものはない。
「…ま、明日は精々踊ってもらうさ」
つぶやいた言葉は、番人の耳には届かず虚空に消えた。
最初のコメントを投稿しよう!