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金ボタンは語る
なぜ、ミワ財団が中央市から公園の敷地一帯を全て買い取ったのか、どうして州都公園がこのように復元されたのか、今までの僕の話で少しは分かってもらえただろうか?
市の事業として進めるのならば、天守閣の完全復元をうたっていたのではないのか? それをどうして世界的にも名の知られた財団が買い取って、わざわざあんな形に? 僕もいろんな人からそう問い詰められた。
せっかくの復元計画をどうして水に流したのだ、と。
でも、復元された完全なる天守閣はいつでも誰にでも『体験』できるようになったでしょう? と僕は反論している、まあバーチャル空間での、幻の城ではあるけど。
それでもけっこうな人気なのは誰も否定できないだろうね。
そして今でも、かの公園は静かなる木立に囲まれ、ゆるやかな起伏の中、枯葉に覆われた小道をたどることができる。
木漏れ日の踊る小道を辿ると、いっとう奥には、小さな木造平屋の資料館がひとつ。
もちろんバーチャル天守閣を見るために見学者は絶えることないが、もうひとつ、彼らが必ず足を止めてくれるのが、そう、あの金ボタンの展示されたケースだ。
それは今でも、当時の輝きそのままに煌めきながらも、ふたつひっそりと寄り添い、僕たちに静かな声で語りかけてくれている。
生きて、繋げよ、と。
(了)
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