7人が本棚に入れています
本棚に追加
おじいちゃん 1
僕は何から先にしたら良いかすっかり分からなくなって、しばらく部屋の中をうろうろと歩きまわって、それから急に、そうだ、これは直接知らせてやらなければ、とあわててフォンをタップした。
「ハイ、ジョー、ひさしぶり」
ミックの大声が更に続ける。
「どうしたんだ? 財団へのこないだの融資の件で、何かあったの? 別件? あ、そう言えば彼、お見舞いの花とても喜んでたよ、こっちからの手紙は受け取ったんだろう? 返事がないって彼ずっと……」
「相変わらず早とちりだな、おじいちゃん。メールで返事したのに。しかも返信も、もらっているよ。それよか今、彼はいる? 話ができる?」
「コーチ?」
ははっ、と彼は明るく笑って「西海岸までドライブに行ってる、って言ったらどうする?」
答える前に、ミックが部屋を横切って、彼のベッドまで行った様子がうかがえた。
「可愛い孫からだよ」と言っているようだ。しばらくごそごそと音がしてから、ようやく
「よお」
耳慣れた、優しい声が響いた。「譲、元気か」
逸る心を押さえながら、僕はいきなり本題に入った。
「見つかったよ」
「えっ?」
彼はすぐに、何のことか判ったようだ。そりゃそうだ。
百歳に近づくまでずっとずっと、ひとつきり心に留めていたことだったから。
「そう、あの金ボタンが」
最初のコメントを投稿しよう!