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おじいちゃん 2
おじいちゃんは、とにかくドジというか、おっちょこちょいというのか、何かと細かい失敗ばかりする人だった。
歩けば溝に落ちるし、ぼんやり考え事しながら歩いてデモの小競り合いのまん中に突っ込むし、最新式のフォンに替えたばかりですぐ屋上から落として壊すし、よく今まで無事だった、と思うようなことばかりだった。
それでも、大戦後にはゼロから出発してすぐ海外に渡り、そこからがむしゃらに働いて一代で財を築いた。
遅くなってから生涯の伴侶を得て、幸いなことに子宝にも恵まれた。
その後も色んなことがあったけど、今ではミワ財団の設立者としても、世界的に名を知られている。
僕は彼の末っ子の更に末っ子、孫の中では一番若くて、彼の生まれ故郷であるここ日本で、大学に通いながら日々平穏にくらしている。
おじいちゃんのコウキチ、通称コーチはずっと海外を転々としていたが、さすがに体の自由がきかなくなってからは、ずっと暖かい南の国で、信頼のおける人たちとともに静かな余生を送っていた。
それでも、僕は――彼の大切な思い出に一番近い場所にいたせいなのか――誰よりかも可愛がって貰えていた気がする。
それはきっと、僕がいつの日か、彼のずっと探し求めていたものを見つけてくれるかも……そんな期待もあってのことだったのかも知れないが。
なぜおじいちゃんは連隊と命運を共にしなかったのか? それもおじいちゃんらしい理由だと言えばその通りだった。
彼は出撃の当日――いかなる事情か今では誰も知らないのだが――寄宿舎二階の自室から駈けおりる途中もんどりうって階段を転がり落ち、意識を失った。
医療的措置ひとつ受けられることもなく、彼はそのまま営倉に放りこまれ、残る第三十六連隊はそのまま出陣して……すべて、帰らぬ人となった。
コウキチが息を吹き返したのは、単に偶然だったとしか言いようがない。
それが天の配剤と言う人もいるだろうが、僕にはよく、分からない。
ただ、おじいちゃんはその後の人生では、自らができることを、そのまま貫き通しただけだった。
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