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 「涼ちゃん。涼ちゃん。資料室まで次の授業に使うイロイロ取りに行くの手伝ってー。」 田代が横溝に甘えた声で言う。 「秋が頼まれた仕事だろ。まぁ、いいけど。」 横溝もいつも通り軽く悪態をついてから腰を上げる。 二人は名字ではなく下の名前で呼び合っている。 それだけで距離が近く感じ羨ましく感じる。 「ほれ、智も行くぞ。」 「えっ。」 いつもそうだ。 横溝は僕の気持ちが見えているかのように心を救ってくれる。 田代からのからかいに困っているときも、僕が話したいと思っている時も横溝から声をかけてきてくれる。 横溝の計らいで資料室に授業で使う資料を取りに行く。 「俺らの事も下の名前で呼んでくれていいから。変に気を使うなよな。」 なぜか照れたように言う田代にお礼を言う。 「俺、秋と涼と友達になれて良かった。ありがとうな。」 改めて言うと秋は「お前って本当恥ずかしい奴だな!」と言い、涼は嬉しそうに微笑んだ。  埃っぽい資料室に入ると先生に頼まれた資料を探していく。 「こんなに埃かぶってるんじゃ今まで使ってなかったんじゃないのかねー?本当に必要なのか、ただの嫌がらせなのか教えてほしいね。」 秋が資料をパラパラとめくりながら愚痴を言う。 「まぁ、急に使いたくなったってことも、思い出したってこともあるんだろう。」 すかさず涼のフォローが入る。 フォローする相手がそばにいなくともフォローをするのが涼だ。 秋も反論されたとムキになることもない。 この二人のバランスは見ていて気持ちがいい。 誰かが嫌な気持ちのまま終わりにならないようにお互い考えているようにも見える。  資料を選び終え教室に戻ろうとすると俯き顔を赤く染めた小柄な女の子が廊下で待ち伏せていた。 「あの。横溝君。ちょっといいかな。」 えっ。涼? 女の子と涼の顔を交互に見てしまう。 「あー、教室戻ってからでもいい?」 涼は手に持った資料に視線を落としながら女の子に答えた。 「無粋。」 秋が一言放ち涼の持っていた資料を奪い取る。 「行ってやれよ。そしてお前は見すぎ。」 先のは涼に、後のは僕に言い僕の腕を引っ張るようにして連れて行く。 気になって後ろを振り返るが涼と女生徒の後ろ姿しか見えなかった。  「涼ちゃんあれでもモテるんだよ。ボケーとしてるしぬけてるのに。やっぱり身長高いからかな。俺も身長高ければモテたのかなー。」 秋が冗談めかして話すが秋がモテることも涼から聞いているので知っている。 今までの人生で告白したこともされたこともない僕にとっては異次元での話のようだ。 「涼ちゃん帰ってきても余計な事聞くなよ?」 秋に言われて初めて色々詮索しそうになっていたことに気が付いた。 何の用だったの? あんなに顔を赤くしていたんだから告白しかない。 何組の誰ちゃん? そんなの教える必要もない。 付き合うの? その質問が頭をよぎった瞬間に涼の言葉を思い出した。 「話したいことがあったら自分から話してよ。無理に聞き出すのは好きじゃないんだ。」 誰だって話したいこともあれば心にしまっておきたいこともある。 自分がされることには敏感なのに相手の事になると急に鈍感になる。 そうやって知らずに人を傷つけているのかと思うと自分が嫌になる。 「秋。お前やっぱりかっこいいよ。顔とかじゃなくて。」 秋に伝えるとニカッと笑い「顔もって言えよ。」と言った。 笑った顔はやはり可愛らしく制服を着ていなかったら女の子と間違えてもおかしくないと思ったが口に出さないでおくことにした。
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