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翌日のお昼休憩の時間。
勤務先の専務であり親戚関係にある由美子さんとお昼ご飯を食べている時、箸でビシッと差されながら鋭い指摘を受けた。
「ねぇ、それってやっぱり騙されているんじゃないの?」
「え」
「確か杏子のカレシって杏子より」
「7歳上の27歳」
「で、名前が」
「辰巳颯太さん」
「で、仕事が」
「……行商?」
「そこ! それ、おかしくない?!」
「え、なんで?」
険しい表情の由美子さんは激しい口調で迫った。
「確かさぁ……一年前に知り合ったんだっていっていたよね?」
「そう。駅前でぐったり座り込んでいた辰巳さんを見かけて」
「それで……なんだっけ」
由美子さんが頭を抱えながら以前私が話した辰巳さんとの馴れ初めを思い出そうとしているのだと思い、もう一度話した。
「仕事で日本中あちらこちら飛び回っている途中でスリに遭って有り金全部無くなっちゃって辰巳さんは途方に暮れていたの。お金がなくて電車は勿論、食べることもままならなくてぐったりしていたところを私が見つけたの」
「で、声を掛けたんだよね?」
「うん。すごく弱っていたから家に連れて行って、お風呂に入ってもらってご飯を食べさせたの」
「確か……三日ほど家に置いていたんだっけ?」
「体調が良くなるまでって、私が引き留めたの」
「それで三日後に出て行った?」
「元気になったから少しだけお金を持たせて駅まで送ったの」
「で、それから」
「借りたお金を返したいからって連絡先を交換して、それから」
「たまーに杏子の処に来るようになった」
「うん」
「で、なんでそんな怪しげな男と付き合うことになっちゃうのよ!」
「えぇ……っと、それは……」
その理由は完全なる私の一目惚れだったから。
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