420人が本棚に入れています
本棚に追加
「由美子さんが心配してくれるのは嬉しいけど私は幸せだよ」
「……」
「そりゃたまにしか逢えないから寂しいけれど……辰巳さんもお仕事を頑張っているんだから私も頑張らなくっちゃって思えるし」
「……」
「だからこそ次に逢えるのが愉しみなの」
「……あたしはさぁ杏子が可愛いの」
「え」
由美子さんが私の頭をポンポンと撫でた。
「こんな田舎にたったひとりで暮らしている杏子が変な男に誑かされないかって、ただそれだけが心配なの」
「由美子さん……」
二年前に両親が不慮の交通事故死してからひとりで生きて来た私。
先祖代々のお墓に眠る両親を弔うためにこの田舎から離れるという決意はつかなかった。
そんな私は遠縁に当たる由美子さんの旦那さんが経営する工場の事務員として働かせてもらっているおかげで生活が出来ていた。
「何かあったらちゃんとあたしに言うんだよ」
「ありがとう、由美子さん」
今まで自分が不幸だなんて思ったことはなかった。
なんだかんだといって町の人は良くしてくれるし、由美子さんだって頼れるお姉さんって感じで心強い。
そして何よりも愛する人が……辰巳さんという存在が出来たから私は幸せなのです。
最初のコメントを投稿しよう!