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「もういい!」
「あっ、梓さん!」
一連の流れに年甲斐もなく照れてしまい、思わずその場から走り去った。
(恥ずかしい! 猛烈に! めちゃくちゃ恥ずかしい!)
こんな羞恥、初めてだ。
私という女には不釣り合いな、似合わないシチュエーション。
こんな恥ずかしいことはもう止めると強く誓ったのだった。
喧嘩別れのようになったあの日から私は秋良を避ける日々を送っていた。
私から会おうとしなければ社内でも会わないのだということを知った。
「はぁぁぁぁ~~~」
「なんだよ、辛気臭いな」
例によって社長室にて報告業務を終えた後、通常業務に戻る気になれずに管を巻いていた。
「……会社、辞めたい」
「おっ、なんだ。ようやく寿退社か」
「嫌味? それ」
「なんで嫌味? 付き合っている奴がいれば結婚を考えるだろうが」
「だからそれが嫌味だっていうの。付き合っている男なんていないわよ」
「はぁ?! おまえ、何いってんだ! ……まさかひきくんとのことは遊びだって言うのか?!」
「……は?」
辰巳の口から思わぬ言葉がいくつも飛び出ていて要領を得ない。
「おまえなぁーあんな優良物件逃したらもう二度と結婚出来ないぞ! おれが断言してやる!」
「あんたこそ先刻から何をいってるのよ! 私が誰と付き合っているって」
「だからひきくん──光岡秋良と、だろう?」
「?!」
確か以前、訊いたことがあった『ひきくん』という謎の言葉。
(それって秋良のことだったの?!)
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