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その日、約一年ぶりに母校へとやって来た私。
(あんまり変わってないな)
たかが一年で劇的に変わるほど流動しているわけではない光景を眺めながらキャンパス内を闊歩していた。
土曜日の大学は普段とあまり変わり映え無く、それなりに学生で溢れていた。
私服で歩く分には社会人の私でも特に目立つようなことはなかった。
勝手知ったるように構内をすり抜けて行くと偶然にもよく知った男と遭遇した。
「あ」
「──へ?」
私と目が合った途端、男の顔は面白いように青ざめて行った。
「あ、ああああ愛?! な、なんでこんな処に──」
「え、誰?」
驚く男の隣には派手な身なりをした女がくっついていた。
(この女が本命って訳ね)
浮気していたという物証を目にしてもさほど感情が動かなかった。
(そんなことよりも)
「佐武は何処」
「へ?! さ、佐武?」
「そうよ。あんたが借金のカタに私を売った男よ」
「わぁぁぁぁぁぁ──!」
「何ぃ? 何の話?」
かつて私の彼氏だった男は佐武の名前を出すと更に青くなった。
腕を組んでいた女は何の事か解っていないようで訝しげに私と男を見ていた。
「ちょ、ちょっと待ってて! あ、愛、こっち!」
「ちょっと、引っ張らないで」
いきなり腕を取られて数メートル先の柱の物陰に押しやられた。
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