5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ログ:null
僕は通信指令室に駆け込んで、最後のログ代わりに通信をオープンにした。
カミイイダさんも一緒に映る。
でも何故か通信先からの応答はない。
「僕はいつかイワシに殺される気がしてました」
「どうして?」
「観察する側は進化しない」
僕が言うと、カミイイダさんは弾けたように笑い出した。
戸棚がずりずりと動き始める。
急速に傾斜していた。
通信設備が壁に押されて、順に異常を知らせる赤いランプを点灯させる。
ふと海の香りがして顔を上げた。
そこに立っていたのはカミイイダさんだったが、決定的にさっきまでのカミイイダさんとは違っている。
カミイイダさんの顔は、てらてら光るイワシの顔だ。
「やあ、私たちの神様。私たちのお父さん」
ぐらっと視界が歪んだ。
僕は怪物を生んだのか。
知性体になってる。
「私は百番遺伝子の後継者。あなたの組んだ百番目の遺伝子こそ進化の鍵だった」
その時、通信が繋がって、ノイズだらけの画面に通信手の姿が映る。
「第二派遣隊基地、大丈夫ですか?」
「助けて――」
僕は呻いた。
通信手の顔もまたピンクのイワシだった。
僕の知っている人間の何人かはイワシだとでもいうのか?
「さあ、私たちは自由を得た。職業の自由もね。私は軍人、そして研究者。お父さん、研究を続けましょう。私、お父さんの研究がしたいな」
カミイイダさんがイワシなりに、うっとり笑う。
僕の足元にひびが入った。
「海の下でね」
(了)
最初のコメントを投稿しよう!