幸せな結末を

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 今日のご飯は何かしら? 「お嬢様、今日の夕食は楽しみにしていてください」  馬車に乗り込む前にトコトコと歩いてきた小太りのシェフが私に言った言葉。今日は終業式だからいつもよりも手の込んだ料理が出るのだろう。シェフの料理に一日中期待しながらも、いつものように授業も終え、帰り支度をしていました。  支度も終わり、そろそろ迎えに来ているであろう従者と合流すべく門に向かう決心をし、顔をあげると目の前、わずか数センチほど離れた場所に少し考え込んだフロイト様の顔がありました。 「!?」  取り乱してしまった私の顔は貴族のご令嬢というにはいささか間が抜けていたことでしょう。それでもフロイト様はそんな私の顔を見て見ぬふりをしてくださいました。  これはきっとイケメンの備えているスキルの一つ『心遣い』というやつなのでしょう。昔からフロイト様は何度かこのスキルを使われていますが、真似しようとしても私は発動できたことがないのできっとイケメン限定のスキルなのだと思います。 「話が、あるんだ」 「話……ですか」  フロイト様が重々しく絞り出した言葉の意味、話、話、なんでしょう?  近々パーティでもあったでしょうか?  相手方に失礼のないよう、お断りするものでも送られてきたすべての招待状には目を通すようにしていますが思い当りません。 「………………ついてきてほしい」 「はい、わかりましたわ」  あいにく私の従者は席を外していましたが、相手はフロイト様。わざわざ従者が戻ってくるまでお待ちさせるのも失礼というものです。私は歩き出すフロイト様の後ろについて歩き出しました。  そして連れてこられたのが、学園の中で一番大きな講堂。  一年に数度、全校生徒が集まるときのみ使用されるこの場所は、学園の生徒が全員集まっても、それでも空間があまるほど。そんな広い講堂にいるのは、私と私の婚約者の第二王子・フロイト様、そして王子の一歩後ろにたたずんでいるのは数か月前にこの学園に転校してきたクラリス様。  クラリス様はこの学園で初めて受け入れた平民の生徒。とても優秀で、特に経済学に秀でている彼女はもともと文官の採用試験を受けるために王都から何千キロも離れた故郷から幼馴染と共に城にやってきたらしいです。文官の試験に見事採用された彼女は王様に国屈指の学園である、セレンディー学園への入学を勧められ、そして彼女は平民でありながらこの学園に入学した、というわけだそうです。  つまり彼女は国王様に認められるほど優秀、というわけです。 「すまない」  深々と頭を下げるのは私の婚約者のフロイト王子。そしてそれに少し遅れてフロイト様の後ろに控えるクラリス様も頭を下げる。  それを私はただ見ている。  何を言うべきかと必死で頭の中で考えながら。  時にはずっと頭を下げ続ける金色の頭と赤茶色の頭を見て、紅茶とお茶菓子みたいだなとか、おなか減ったな、夕ご飯は何かしらと脱線しつつ。  国王様が認めるほど優秀なクラリス様とフロイト様がここにいる理由。  そんなことは分かりきっています。わかっているので早くいってほしい。  私の思いに反して一向に頭をあげようとも口を開こうともしない王子。気の長い方ではない私はだんだんイライラしてきました。 「なぜ謝るんですの?」  仕方なく切り出した言葉。それにびくりと反応して王子は頭をあげる。クラリス様に至ってはずっとうつむいたまま。これじゃあ表情だって見えやしません。 「君を愛せない……から」 「今、何と言いました?」  はっきりお言いなさい!と圧力のかかった微笑みを一つ王子に投げかけた。もちろん長い付き合いの王子にはその意味が伝わったのでしょう。 「その……彼女を愛してしまったんだ……」 「愛してしまった……ですか」 「…………ああ、そうだ」  愛してしまったって何ですか。しまった、ってなんて失礼なんでしょう。ここは怒ってもいい場面だというのに、王子の後ろの彼女に目を向けても一向に顔をあげる様子はない。だから私は冷ややかな声で、この怒りがわかるように言葉を発する。 「そう……ですか。それで私を愛せない……と?」 「ああ。それでも、君には幸せになってもらいたいんだ。君を愛してくれる人の隣にいてほしい」 「幸せ? 私にとっての幸せはお妃さまになってこの国を支えることです」 「だから……」 「あなたとの結婚はいわば政略結婚。そしてあなたは彼女を愛しているというのでしょう? ならば私と結婚し、彼女を妾にすればいいのです」  ふっ、と鼻で笑って王子の後ろに控えるクラリス様を一瞥する。  すると、クラリス様が何の動きもしない代わりに王子は身体をフルフルと震わせた。 「それは……彼女に対する冒とくか?」 「いえ、違います。一番私たちの理想に近い形です。ねえ、あなたはどう思います?」 「え、わ、私ですか?」 「ええ、あなた。あなたは彼を愛しているのでしょう? 王妃になりたいのですか?」  あなたの意見が聞きたいのだと投げかければ、クラリス様は素直に頭をあげた。その顔にはまさか質問なんてされることはないのだろうと思っていたのがありありとわかるほどに気の抜けた顔をしていた。けれどもすぐにその顔は引き締まった。 「いえ、私は王妃になりたいわけではないのです。ただ、どんな形であろうと彼の隣にいたい!」  今までうつむくだけだったクラリス様は今までの行動が嘘だったかのように強く言い切った。それを王子は目を見開いて聞いていた。  だから私は言いました。王子の望むような提案を。  みんなが幸せになれる方法を。 「ほら、ね。だったらクラリス様を妾にするべきです。彼女はいくら優秀とはいえ身分は平民にすぎません。クラリス様を正妃に取ると知れば、今まで黙っていた他の貴族たちが騒ぎ出します。クラリス様だって無事でいられるとは限りません。ならば私と結婚しましょう? ねぇ、王子?」 「……わかった。彼女がそう望むのであれば」 ◇ ◇ ◇  王子はクラリス様を伴って講堂を後にした。王子の後ろを歩くクラリス様は講堂のドアまで差し掛かった際、こちらを振り返り、深く礼をした。  もう私しかいない講堂で、私は笑いをこらえることはできなかった。 「ふふふ」  ずっと、彼女を見た時からずっとこの日を待ちわびてきた。  ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。  どんなにつらいお稽古も全てはこの日のために流れる涙を抑えては自分を鼓舞してきた。  だからあふれ出るこの感情はもう抑えることが出来ない。 「ふふふふふふふふふ」  にやけてしまう口元も。  次第に大きくなってしまう声も。  もう抑えきれない。  だってそうでしょ? 目の前でカップリングの成功を見届けることが出来たのよ? それも一番の王道で、私の一番のお気に入りのシナリオ。  ゲームと違うのは、私がヒロインであるクラリス様をいじめなかったことと、私が断罪されなかったこと、そして最後のイベントが3人で、内内に行われたことだ。  ああ、なんて私は幸せなの?  いじめなんてしなくても二人は惹かれあった。私という、王子という枷を負いながら二人は見事に愛を貫いた。  それも全ては私が欲望のままに従って、悪役令嬢のシナリオをガン無視したから。  だって、いじめなんてしたくなかった。  推しキャラをいじめて反応を楽しむなんてそんな趣味は私にはない。それにBAD ENDになんかなったら待っているのは打ち首。時代錯誤に感じるそれは画面を通してみただけでも十分に痛いということは伝わってきたし、何より死んでしまっては続きが見れない。  せっかく転生したのならゲームじゃ見れなかった今後についてじっくり見たいじゃない!  王子が彼女を娶るまでの数年。私は他の貴族から送られてくる側妃たちを押しのけつつも政治に参加しなくてならないだろう。  忙しい、ああ、忙しい。  それでも大丈夫です。  すべては王道カップリングのため!  そう思ってしまえばなんだってできる。  例え山積みの書類でも、真っ黒な腹の狸じじいとの腹の探り合いでも。 「おーほほほほほほ」  悪役令嬢らしく高らかに、よく響く講堂で笑って見せる。  それは二人が幸せになるための、そして私が幸せになるための合図。  決して誰も悲しむことはない。  手の届かない相手と嘆き続けるヒロインも。  ヒロインを愛していながら他の女と結婚していく王子様も。  愛されていないと知りながら王子を愛し続ける悪役令嬢も。  誰一人としてここにはいない。  だってできることならみんなで幸せになりたいじゃない?  だから私は選んだ。  みんなで幸せになれる結末を。  私が幸せになれる結末を。
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