私は私が大嫌い

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「おい、大屋! 進路調査票はどうした? まだ提出してないの、お前だけだぞ」  授業後のホームルームが終わり、そそくさと教室を後にしようとした時のことだった。担任教師の野太い声で引き止められ、内心げっそりしながらも何でもない顔で応対する。 「……すみません、用紙をなくしてしまって」 「なんだ、珍しいな。そういうことなら早く言え。ほら、もう一枚やるから早めに出せよ」 「はい、すみませんでした。来週提出します」  真新しいクリアファイルに、教師に手渡された真っ白な用紙を挟んで鞄に突っ込む。この紙っぺら一枚で私がどれだけ憂鬱な気分になっていることだろう。  早くこの騒がしい教室から抜け出したくて、鞄の口も閉めずに教室を出た。  今日は全校集会があって変則授業だったから、部活はない。部活といっても、私が所属する書道部は自由参加制で、年度初めに発足会をしたときにしか会ったことのない部員も何人かいる。一応形だけではあるが部長を務めているので、私はほぼ毎日参加している。  もともと字を書くことが好きだが、それ以上に毎日でも部活に参加していたい理由がある。それは決して積極的な理由ではない。ただ単純に、家に帰りたくないからだ。  適当に時間を潰そうと、学校から歩いて二十分ほどのところにあるショッピングモールに行くことにした。  本当は駅前のお洒落なカフェで夜まで一人勉強をしていたいのだが、手持ちのお小遣いでは紅茶一杯で五百円というのは結構な贅沢である。この間、友達と流行りのパンケーキとやらを食べに行ったせいで、財布には千円と少ししか入っていない。  仕方なく、モール内の本屋で雑誌を立ち読みして、文房具店で新しいノートを買って、友達とよく行くファストフード店で温かい紅茶を頼んで、そこで課題を片付けることにした。  辺りを見回すと、同じ高校の制服を着た男子数人が騒ぎながらフライドポテトをつまんでいる。うるさいな、と思いながらスマートフォンとイヤフォンを取り出して、目の前の課題と聞きなれた音楽に集中した。
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