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私のおかしな恋の始まり
月曜日の朝は憂鬱だ。
これからまた一週間が始まると思うとだるいし、二度寝ができないのもつらいし、自分だけでなく周りまでなんだかせかせかしているように思える。でも、今日はいつもの月曜日よりも少しだけ心が軽い。
「あれ? 月曜日なのに姉ちゃんがもう起きてる! なんで!?」
「……おはよう、千尋。すごい寝癖だよ」
「なんだよ、自分だっていつもボサボサのままご飯食べてるくせに!」
私が珍しく二度寝せずに起きてきたのが、そんなに驚くことだろうか。私より少しだけ遅れて起きてきた千尋が、すでに着替えも済ませて朝食の支度をしている私を見て目を丸くしている。
それもそうか。朝が弱いのは毎日のことだけど、月曜日は特に駄目で、お母さんに言われて千尋が私を起こしに来ることさえあるのだから。
「千尋くん、おはよう。スープあるけど飲む?」
「飲む飲む! あ、お母さん、ぼくパン三枚ね!」
「はいはい。倫ちゃんは?」
「……私も飲みたいな。パンは一枚でいいよ」
「ねえ、お父さんは? まさかもう仕事行っちゃったの?」
「うん、朝から会議なんだって。忙しくて嫌ねぇ」
いつも通りの朝だ。母に温かいコーンスープをよそってもらって、私は三人分のコップに牛乳を注いだ。
料理上手な私の母は、その腕を活かして週に何日か料理教室で働いている。今日は出勤の日なのだろう、すでにメイクもばっちりだ。
三人共テーブルについたところで、揃って手を合わせて朝食を食べ始める。ご飯はできるだけ家族みんな揃って食べるのが我が家の決まりごとで、それが私にとって負担でもあった。
でも、今思えばこのご飯の時間が無ければ、家族との距離は今以上に離れる一方だっただろう。一緒に食事をするということは、必然と会話もする。この時間が、辛うじて私と家族を繋ぎとめていたのかもしれない。
「ねえ、千尋。今日はバス停まで姉ちゃんと一緒に行こうか」
「ええっ!? 姉ちゃん、どうしたんだよ!? いつもはぼくが誘っても嫌だって言うくせに! 風邪でもひいたんじゃない?」
「うるさいなぁ、たまにはいいでしょ」
「よかったねぇ、千尋くん。倫ちゃんと行きたいって、いつも言ってたもんね」
「べっ、別に! 姉ちゃんが一緒に行きたいって言うなら、行ってやってもいいけど!」
千尋も私と同じ意地っ張りだ。私ほど卑屈でもネガティブでもないけれど、ずっと同じ家で過ごしていたら嫌でも似てしまうのかもしれない。そう考えたら、血が繋がってないだとか養子だとか、そんなことは案外些細なことなのかもしれない。
ほんの三日前の私だったら、こんなことは絶対に思えなかった。これも、平原さんのおかげだ。
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