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その晩、俺は生まれ変わったホテルの一室で、まんじりともせず過ごした。
チェックアウトをしたあの朝、支配人は体調が悪そうだった。いくら座敷わらしといえども、人間の老いまでは左右できまい。前の支配人は引き際を悟り、経営から手を引いた。ここまでは頷ける。
俺が知りたいのはただ一つ──それなら、あの娘はどこへ行ったのだ?
考えてみれば、あの座敷わらしはホテルに憑いていた。言いかえれば、支配人の居宅には憑いてはいなかった。
年老いた支配人か、それともリニューアルしたホテルか。この場合、娘はどちらに操を立てるのだろう?
答えが与えられるのを、俺は待った──けれども、いくら待てども、何事も起こらなかった。
確かなのはただ一つ。俺が好きだったホテルは、もうないということだ。
俺は前のホテルが気に入っていた。食堂で時を刻む柱時計、ポットサービスのコーヒー。支配人とのとりとめのないお喋り。そしてあの座敷わらし──。
窓の外を、新幹線が通過する。その音だけが昔と変わらなかった。
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