Hotel Little Demon

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 座敷わらしの恩寵だろう。東京に帰った俺を待ち受けていたのは、にわかに舞い込んだ数多の執筆依頼だった。  皮肉なものだ。日々締切に追われながら、俺は自嘲した。あの娘の力が、俺の真の望みを遠ざけたのだから。  そういうわけで、俺が再びその街を訪れた時には、全てが手遅れになっていた。  そこにはまだ、ホテルが立っていた──ただし、看板が変わっていた。ネオンの切れかかった看板は失せ、代わりに全国に展開するチェーンホテルの看板が鎮座していた。  その街のホテルは、全くの別物に生まれ変わっていたのだ。  半ば食ってかかるように、俺は従業員にどういうことか尋ねた。 「当方ではお答え致しかねます」若い従業員はそう答えた──非の打ち所がない対応だ。忖度やユーモアなど、余計なものは一切含まれていない。  俺の疑問に答えてくれたのは、街の喫茶店のママさんだった。 「ご主人が売却されたのよ。年だし後継ぎもいないから、そろそろ潮時だろうって」
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