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ブレストレーニングを終え、楽器を組み立て音出し、なのだが。
この時にイスや譜面台なんかも並べるので、なかなか慌ただしい。
ようやく並び終え、落ち着いて伊音が音出しを始めると、ドアが開いた。
入ってきたのはニコニコとしたおじいちゃん先生。林先生という伊音も知っている、音楽教師だ。かつ吹奏楽部の副顧問でもある。
彼が入ってきた瞬間に、その場が一気にざわついた。
「ー老師だ!みんな、ガタガタしない椅子とふかふかの座布団を持ってきて!」
敵が奇襲してきたかのような、このざわつき具合。1年は戸惑う者が大多数である。
伊音の隣に座る実乃梨は、随分テンションが上がった様子で目をキラキラとさせていた。
「老師キタ━━━(゚∀゚)━━━!!」
…膝においていたタオルでバシバシしている。勢いで譜面台が倒れないか心配である。
林先生、もとい老師は尚もニコニコしながら一瞬で用意された"指揮台上の"椅子にゆっくり向かう。
「ふぉっふぉっ、まずはチューニングでもやってもらおうかの。オーボエさんはB♭(ベー)出してもらえるかのぉ?」
吹奏楽において、チューニング(音程合わせ)はB♭、ピアノでいえばシ♭である。ちなみに、トランペットではドの音。
1人しかいないので、オーボエの1年生がB♭を出す。
それを聞いて、フルートやクラリネットなどの音が小さめの木管楽器が合わせる。倍音なんかも合わせ始めたら他の楽器も合わせ始める。
初めて、ということもあり中々合わず、1年生のオーボエ奏者も音の止めどきがわからないようだ。
(あんまり長々とやるもんじゃないんだけどなぁ…。)
早々に離脱した伊音が若干呆れ気味見ていると、老師と視線が合う。老師は相変わらずほのぼーのとした笑顔を浮かべていた。
「ふぉっふぉっふぉっ、大変じゃのう。オーボエさん次はA(アー)を出してくれるかのぅ?」
Aの音はオーケストラでのチューニング音だ。弦楽器の開放弦に合わせているため、管楽器は更に音を合わせにくくなる。
先ほどよりも音程のぶつかり合いが激しくなる、一言だと「ぐちゃぐちゃ」である。
(…老師はこうなる事をわかっていてワザと指定したのか…?)
伊音はよく注視するが、「ふぉっふぉっふぉっ」と笑う老師の表情から本心は読み取れなかった。
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