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老師の次の指示はロングトーンだった。
そこでゆっくりと老師が立ち上がり、タクトを大きく振り上げた。
「ウーノ(uno)、ドゥーエ(due)、トレ(tre)、クワットロッ(quattro)!」
…今ので1年の半分以上が入りそびれたようだ。老師がタクトを下ろす。そしてにこやかな表情のまま至極楽しそうに笑った。
「ふぉっふぉっふぉっ、頼むぞい。」
困惑顔の生徒たちを目の前にして、ここまでの笑顔…!
(この人…めちゃめちゃ変人だ!!)
実は伊音も漏れなくその枠に入ってはいるのだが、本人は気がついてはいない。
「今日の老師はイタリアの気分だね!」
練習の邪魔にならない程度の声量で実乃梨が呟く。瞳はキラキラと輝いてる。
(イタリアの気分て…?)
不思議には思うものの、持ち前のスルースキルで伊音は見事にスルー。
目の前の練習に集中することにした。
音楽に集中した伊音は、その後の老師の奇矯な行動も、その度にテンションが上がる実乃梨も、全てスルーした。
老師がイタリア語で5分間喋り続けたことも、指揮台上で突如ジャンプし始めたことも、伊音はスルーし続けた。
-こうして伊音は更にスルースキルをレベルアップさせていき、遂に「不動明王」と呼ばれたとか呼ばれてないとか…。
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