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「吾はこの地に住まうオシホミの一族の者である。この地の山の恵み、野の恵みは吾らが守護している。一夜の宿りを咎めはせぬが、その後は速やかに旅立たれるがよかろう」
吾の言葉に娘は胸の前で手を合わせ、大きく頭を下げてから答えた。
「ご口上承りました。私は一行を束ねるタゴリの妹でタギツと申します。凛々しいお方、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「吾は族長オシホミの弟ヒコネである」
「ヒコネ様、私たちは彼方の国から戦を逃れて来た者どもでございます。身を落ち着かせる地を求めて旅しておりますが、もとより土地の方々と争うつもりはございません。姉は今、仮寓の中で未来を視ております。それを踏まえて、明日、族長様にご挨拶に伺いたいと思いますがいかがでしょうか?」
「はて、未来を視るとは?」
「姉は時の巫女でございます。その土地の未来に起きることを、目の前に広がる景色のように視ること、他の者に視させることができるのでございます」
「ほう」
不可思議な話だが、娘の堂々とした態度は、その力を信じているように思われた。明日、挨拶に来るというのならその時に確かめればよい。だが……。
「わかった。吾らの館は丘の中腹に建つ木柵に囲まれた建物だ。明日、訪ねて来られよ。その前に船の中を見せてもらってもかまわぬかな?」
「勿論です」
娘は表情を緩めた。
「どうぞこちらへ。私がご案内します」
渡り板を上って船に乗り込む。中にあったのは多くの焼き物や道具類、穀物が詰まった甕などで、警戒した武器や潜伏者は見当たらなかった。甕の穀物を一粒つまんで娘に尋ねる。
「これは何なのだ?」
「米でございます。土地を選びますが、合った土地なら豊かな恵みをもたらします」
「ふむ」
ふっくらとした形のそれは、これまで見たことがないものだった。
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