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翌日、他所者たちが館を訪ねて来た。人数は五人。手首まで覆う袖と足元までの裳裾の装束の女はタゴリと名のった。顔はタギツとそっくりで背格好も同じくらい。顔に紋様はないが、唇に紅を注し目尻に瑠璃色の三日月を描いていた。髪はよく梳られ、鹿の角と光る貝で出来た飾り物を差している。残り四人は上衣と膝までの腰衣の衣装、木の背負子で荷物を運んで来た。
タゴリたちは兄者の前に通され、吾は兄者の横に控えた。タゴリは持参した斧一丁と皿二十枚を贈り物として差し出し、跪いて言上する。
「ご挨拶の品物です。どうぞお納めください」
兄者は贈り物を調べ、満足げに頷いた。斧の刃はこの辺りではめったに手に入らない鉄製のもの。皿は焼き物で、満月のようなきれいな円形をしていた。
「戦を逃れて来られたと聞いたが……」
「はい、私たちの国は隣国の侵攻を受け攻め滅ぼされてしまいました。王宮で働いていた私たちは何とか逃げのび、この地に至った次第です。男たちともはぐれ、女ばかりになってしまいました」
「それはお気の毒に」
「どうかこの地の片隅に私たちを住まわせてはいただけませぬか?」
単刀直入な申し出に兄者は困った顔を見せる。
「吾らも山の恵み、野の恵みでかろうじて命をつないでおる。簡単に受け入れられるものではない」
「ごもっともでございます。されど、川の曲がりの近くの湿原はお使いになっておられない様子。私たちはその近くに住処を作り、米を育てて暮らしたいと思います」
「米とは何じゃ?」
「湿原で育つ穀物でございます。昨日ヒコネ様に見ていただきました」
兄者が吾に視線を向けたので、頷いておく。
「収穫までには長い月日がかかろう。それまでどうされる?」
「私たちは王宮で焼き物を作っておりました。この地には焼き物に適した土と燃料となる木がございます。この地で焼き物を作り、船で運んで食料を調達いたします」
「そんなことが出来るのか?」
「はい、私は未来を視ました。お望みであれば、それをご一族の方に見ていただきます。そこにおられるヒコネ様がよろしいでしょう」
タゴリはそう言って平伏し、吾は未来視なるものに付き合わざるを得なくなった。
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