眼鏡美人・進藤早智子さん

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 肩を軽く叩かれる。  さっきの眼鏡の女性(ひと)だった。  胸の名札に進藤早智子(しんどうさちこ)の文字。  「名前、聞いてもいいかな」  落ち着いた静かな口調。  「松山洋介っていいます」  「あの子の名前。ヌイグルミについたカードに書いてあるね。  待ってて」  早智子さんがステージに駆け上がった。  リエさんになにか話しかけてる。リエさん、何度も頭下げてる。  しばらくして眼鏡の女性(ひと)、ステージから下りてきた。  「MAXタイプのCD。リエちゃんのサイン入りチェキとメッセージが入ってる」  「ありがとうございます」     早智子さんに頭を下げた。  「これは君に」  『女子校パラダイス』のCD。  「わたしのサインの入ったチェキ」  「えっ!」  「わたしも一応メンバー。サブだけど・・・」  「あ、ありがとうございます」    もう一度、頭を下げる。  頭を上げたら・・・  早智子さん、まだぼくの顏、見てた。  早智子さんの真面目な顔に会釈。  早智子さん、すぐぼくに背を向けた。  でもまた振り返って・・・  なにも言わず立ち去った。  少年のところに戻ってCDを渡す。母親らしい人と何度もお礼を言われた。  手を振って別れる。  取っ組み合いはまだ続く。  警備員が必死で止めている。  そのときだった・・・  心を動かす気配。  気配の方向って・・・街宣車のすぐそば。  その女性(ひと)が口を軽く動かした。声は聞こえない。  「バーカ」 ってつぶやいてた。口の動きですぐ分った。  大きな瞳が、いがみあうファンたちを無表情に見つめている。  その奥に、こわいくらいの冷たさ、悪意が見える。  そう、高城サキさんの表情の奥。  いま、分かった・・・  いつだって悪意と敵意、そして震えを感じるくらいの殺意が隠されてるんだ。  高城さん、法律が味方するんなら、駐車場にいる観衆を、ひとり残らず機関銃で撃ち殺してしまうんじゃないだろうか?  高城さん、街宣車にもたれて立っている。口にはポッキーチョコレート。  初めて会ったばかり。  なのになんて強い印象を残す女性(ひと)だろう。  邪悪な目。  だけどりりしい。  体が痺れるかっこよさ。  不思議な女性(ひと)なんだ。高城さんって・・・
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