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東部高校に進学できなかったのって母の責任なんかじゃない。
叔父だって言ったんだ。
「お祖母さん、わたしの母は、君を進学させる金など、持っていなかった。
だれかにだまされたのかもしれない。
死んだ人間には聞けんよ。
松山家には借金だけだ。
東部高校は私立で費用がかかる。進学したいのなら、お母さんに相談してくれないか。
商事会社の社長と再婚したのなら、それくらいのことはできるだろう」
叔父さんは東部高校の入学金を出してくれなかった。
母とは連絡がとれない。
東部高校入学辞退。
公立高校の受験って終わってたから行き先がなくなった。
祖父がぼくに言った。
「東部高校から日本英語学院に進学し、大学院にまで進み、わたしの跡を継いで日本の英語教育の第一人者になりなさい。
分かったね」
でもなんの準備もしてなかった。後継者になれってどういう意味?
目から一筋、熱い涙が落ちた。
「夫も責任を感じてるの。それで・・・」
携帯を切った。
入学を辞退した以上、東部高校への再入学なんかできっこない・・・
携帯の電源を切った。
「バカ!バカ・・・バカ」
一筋の涙が、滝に変わって、あとからあとから流れていった。
叔父さんに土下座して、
「入学金を貸してください。」
って言えばよかったんだろうか。
「自殺する」
って叔父さんを脅せばよかったんだろうか。
どうしてそうしなかったんだ。しばらく泣いた。たぶん声も出したって思う。
外出するとき、いつも持ってくショルダーバッグを開ける。バッグの底に小瓶。
三月末にネットで購入。すぐ使うつもりだった。
でも明日香先輩の顔、思い浮かべた。
もう一度、会いたかった。
ふたりで撮った写真、三十枚くらい、袋に入れる。
家を出る前、携帯の電源を入れ直した。
母からのメール。
<今度、夫と行く。明日香ちゃんによろしく>
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