「女子校パラダイス」と高城サキさん

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「女子校パラダイス」と高城サキさん

 よく見たら、さっきの公団出版の人たちまでいた。  高城さんのそばで土下座してる。  ポロポロ涙流してる。  高城さん、なにも関心ない。  汚らしいゴミでも見るような表情。  「二千万。二千万なら上乗せできます」  「これでなんとか、専属契約の件・・・」  高城さん、ポッキーチョコレートを口にくわえた。  「おじさんたち。頭、悪いんですか?  わたし、二億って言ったんです。  憶えてくださいよ。それくらい・・・」    高城さん、ポッキーチョコレートかじる。  カリカリって残酷な音。  ぼくのそば。  スポーツ新聞や雑誌の腕章をつけたグループ。  すごい!マスコミが取材に来てる。  十人以上・・・  ひそひそ話が聞こえる。  「必死だな。公団さん」   「一回、しくじってるからな」      公団出版の人が土下座してるそば。  早智子さんが、高城さんになにか話しかけている。  高城さんがぼくのこと見る。  高城さんの目から、悪意も敵意も殺意も消えた。優しい姉のような慈愛に満ちた目。口元に親しげな笑み。  悪魔がつかのまに見せてくれた愛情。  一瞬の後、高城さんの目は、悪魔に戻った。  でもぼく、忘れたりなんかしない。  一瞬の高城さんの目。  「おじさんたち」  高城さんが冷たく、甲良さん、大賀さんを見下ろしてた。  「わたしの言ったこと、ちゃんと社長さんに伝えてください。  今度、来た時、また  『一億』 って繰り返したら、本社にクレーム入れますよ。  認知症の見苦しい中年がふたり来て、心に深い傷を負ったって・・・」  ぼく、高城さんに心を残しながら、歩き始める。  「松山君!」  ぼくを呼ぶ声。  振り返る。  高城さんと早智子さん・・・  高城さんがなにか、ぼくに投げた。  宙に円を描きながら、ぼくの手元に落ちて来る。  手の中にポッキーチョコレートが一箱。  お礼を言おうってしたら、高城さん、もういなかった。早智子さんまで・・・  高城さんは見えなくなった。  でもぼくの心には見えてた。  そしてもう一度、ぼくの前に現われることになった。  
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