黄河クルーズ船に乗って

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黄河クルーズ船に乗って

 黄河を延々と登っていく勘解由小路の豪華クルーザーがあった。  用意されていた男部屋に寝っ転がった鬼哭啾々は目に見えてイライラしていた。 「ああああああ!うるさい!のべつまくなしにイチャイチャしやがってええええ!何が男部屋だ?!甲板に雑魚寝じゃねえか!お前はいいのか?!伏犠!影山さんよ?!」  甲板向こうの豪華な船室から、嫁の艶声が延々と聞こえていた。 「ベッドはあるが、俺には合わん。硬い床にそれを覆うダンボールでもいい、シェルターが欲しいと母に、いやお嬢様に願い出ている。出来れば日中はシェルターの中で寝ていたいのだが」 「お前は飼われているヤモリか?!」 「まあ、出来れば私もそれでいいです。人一人潜り込める木のウロなんか最高ですね。女媧ーー妻はそういうの嫌でずっと夫婦別室生活です」 「あああああああああああ!どいつもこいつも!許せん!憎い!そう言えば、あの高校生はどこいった?!女子高生だけ船室用意されたな。勘解由小路の隣の。俺ならとっくに刃物持って突入してる」  ボコボコにされた静也が投げ込まれた。 「百済からの訪日を思い出し、船首甲板で風を感ていればこれだ。いい加減懲りたらどうだ?」  呆れた温羅の言葉に、早くも回復し始めていた静也は言った。 「いや。俺は諦めない。あと5日ある。きっとノリリンを妊娠させてみせる。ノリリンはきっと俺を待っている。今月の生理が来たのは把握している。まだ5日ある。俺のオス犬ちゃんは今やドーベルマンになっている。紀子に特別な感情はないが」  あるじゃねえか。露骨に発情してるじゃねえか。 「おい。伏犠さまよ。あんたの嫁は何企んでんだ?どうせ勘解由小路が無茶苦茶にしちまうんだろうが。あんた女媧と対をなす神なんだろう?もうちょっとこう、俺達に神様的な何かないのか?ビフレスト発動させるとかよ?」 「それは無理ですね。今の私は、大したことは出来ません。女媧も同様です」 伏犠がビフレスト知ってるのが何よりも驚きだった。 あー。可愛い。勘解由小路の声がした。  ケニー・バレルのロスト・イン・ザ・スターズがエンドレスで流れ、高級な船室のベッドの側には緑が寝ていて、真琴は、勘解由小路の心臓の上を嬉しそうにペロペロしていた。 「ああ。そうだ、あいつ等は間違いなく神だが、人界に干渉する以上あまり大それたことは出来ん。精々仙人と変わらん。お前の邪眼でイチコロだ。うん。上目遣いで俺を見つめるなよ。オス蛇ちゃんが元気になっちゃうじゃないか。もう散々オス蛇ちゃんが暴れ回ったのにな。ああ、おっぱいが俺の胸の上で潰れちゃってる。うん、だから、ああおっぱい。おっぱい。おーーうおおおおおお!おいでえええええ!おっぱいいいいいいい!」 「行きましゅ!降魔しゃん!ああしゅてき!ぐいぐい引っ張られちゃてましゅ!あん!それはめくったらアリスちゃんが!キュン!」 「チャイナドレス。エロい。堪らん。ああ。愛してるぞ真琴。俺の、俺だけのエロ蛇ちゃん。裾めくり上げちゃうぞ。ああー。おっぱいがプルプルしてる。かーわーいーいー。黄河のほとりで出来ちゃうぞー。新たな坊主が。新たなお嬢が。うーんいただきまーす!」  あーうるさい。静也は襲ってくるし。  紀子がイライラしていた時、何かがクルーザーを撃墜した。 船室は裂け、濁った黄白色の水が流れ込んできた。  力強い静也の腕で抱きかかえられた紀子は、水面に上がりそれを見た。  大きな月が汚染された空気を裂くように浮かんでいる。  霞んだ闇の中に、水面に立つ四人の人影が見えた。  水に浮かんだままの静也は言った。 「風を使えば俺も水面に立てるのか?ホバークラフトの様に」 ふわりと、勘解由小路は翼を広げ、水面に降り立った。 え?どうやって? 「ああ。お前達が魔家四将か。再生怪人は弱いって知ってるのか?ところで今回の襲撃で一人激怒してる奴がいるんだが。おお元気がいいな緑。母ちゃん大激怒だ」  紀子は見た。沈みかけた船の突端に、すらりと立つ人影があった。  チャイナドレスの裾が揺らめいて、エロ妻。いや、怒り心頭の毒蛇姫の姿があった。 「許さない。しゅてきな旦那しゃまの赤ちゃんが出来なければ貴方方の所為ですよ?覚悟してくださいね」 全くもって言いがかりを発した真琴が、沈没した船を捨て、水面に降り立った。 「狐池さんの職能は存在の固定だ。狐池さんにかかれば水面だろうと空中であろうと自由に走り回れる。お前達も影響下にある。真琴、俺の指示通りに」  勘解由小路は言い、真琴は、モノクルを外した。  闇の中に、金色の蛇紋が揺らめいた。
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