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「けじめをつけたかった。あー……高根椿さん!」
突然の大きな声に椿の瞳が見開き肩が少し上がった。
「寂しい想いはさせない。椿が常に笑顔であるよう最善の努力をする。椿を心の底から愛している、誰よりも愛している。大切にする。だから! 俺と、結婚しよう」
椿の瞳に映る煌めきがユラユラと揺らめき、とうとう決壊した。大粒の涙が、こぼれ落ちる。
「日記を……読みました。庸介さんの気持が苦しくて、痛くて。私は、目覚めない私を痩せてしまった私を責めていました。嬉しいはずの指輪も、眠る私の指からすり抜けた事実に……庸介さんに申し訳なくて」
椿が、鼻をすすり両手で顔を覆っている。
惨めな気持ちを味わわせるために、日記を持ってきたのではない。こんなに辛くて苦しかったと、同情を引きたかったわけでもなければ、不幸自慢したいわけでもない。
自信を持たせたかった。
きちんとプロポーズをして、二人でスタートラインに立ちたかった。
苦虫をかみつぶしたように顔を歪めると、ひとまず椿を抱きしめようかと肩に置いている手を動かす。
その刹那、椿が顔を上げた。
懸命に涙を堪え、なんとか口角を上げようと唇を震わせている。
「今、私の指はこの指輪を拒絶していません。こんなにステキな指輪がはめられたことに、私の薬指はとても喜んでいます」
椿の唇が尖っていく。どうにかそれを阻止しようと、椿の口元は忙しそうに動いている。
「ふ、ふつつか者ですが、末永くよ……よろしくお願いします」
堪えきれず、椿は庸介の胸に飛び込むと、嬉し涙を流しながら声を上げて泣き出した。
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