序幕

2/11
3118人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
 庸介はそっとドアを開けた。薄暗い部屋の中、ベッドサイドランプがぼんやりと黄色の光を放っている。柔らかな光に照らされてキングサイズのベッドの左側、こんもりとした山が見えた。  あの中に椿がいるのだろう。  シャワーの前、バスローブでは寝にくいと言う椿に、庸介はいつも着ているTシャツとショートパンツを渡した。きっと今夜も、下着をつけずにTシャツを着ているのだろう、ベッドの中で擦り寄る椿の胸が腕に当たるところを想像する。  椿の胸はいい。声に出してわざわざ伝えたことはないが、形も大きさも弾力も全てが理想なのだ。色々なフェチがあるが、間違いなく自分は胸フェチだと今更ながらに庸介は思った。ホーチミンでマッサージをしたあの夜に、すっかり椿の胸に魅了されてしまったのだと、やけに納得した。  ああ、そうだ。落ち着いたら、二人でホーチミンに行きたい。ジョージたちや斉木くんに結婚の報告に行きがてら、椿とベトナムを回れたらいいな。  そんなことを考えながら大股でベッドに近付き縁に腰掛けた。振り向くであろうと思った椿の山はそのままだ。  
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!