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湿気を含む風が吹いている。もしかしたら雨が降るのかもしれないと、庸介は青く晴れ渡る空を見上げて強い日差しに目を細めた。
しっとりとしたそれでも爽やかな風に、椿の短い髪がそよぐ。上から見ても、耳が赤いことが分かった。
「耳が真っ赤だよ」
指先で耳に触れると、そよぐ風よりも素早く、庸介の指ごと椿は耳を手で隠した。
代わりに現れた顔はやっぱり赤い。
「顔も赤い」
困ったように眉を下げて固く目を閉じていた椿は、クルッと回転すると後ろの庸介の胸に顔を埋めた。
「どうしたの? もしかしたら、具合悪い?」
椿は昨日退院したばかりなのだ。やはり、昨夜は無理をさせてしまったのかもしれない、もしかしたら頭痛がするのか……? 傷口が開いたとか……!
庸介の胸の中を冷たいものが伝う。確認しようかと慌てて椿の肩に手を掛けたところで、胸元から小さな声が聞こえた。
「……ダメです」
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