涙の雫を笑顔に変えよう

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 悩みながらも込み上げてくる気持ちを堪えられずに口元が緩む。庸介は、片手で口を覆うと青い空の向こうを見上げた。  胸に顔をつけて時々しゃくり上げる椿の背中をそっと撫でる。  正直なところ庸介にとって、椿の気持ちは理解し難いものである。  確かに散々遊んできたが、どれも遊びだ。本気じゃないのだから、どの女がどうだったとか良かったとか悪かったとか、ほぼ覚えていない。  そんな記憶の隅にも残らないような僅かな欠片に嫉妬されても、どう言ったらいいものか皆目見当がつかず、次に発する言葉選びに困ってしまった。  そうだ、こういうときは相手の立場に立ってみるんだ。  当たり前のことを思いつき、例えば椿の過去にたくさんの男がいたらと考えてみた。  ……。  確かに、気持ちのいいものではない。  でも、過去は過去だ。それ以上でもそれ以下でもなく、過去の男たち以上に自分は椿を大切にし慈しみ愛していこうと思うだろう。  ああそうだ。庸介は思い出した。  これは、入院前から俺を悩ませるいわゆる命題なのだ。すっかり忘れていた。  どうしたら、愛されているという揺らぎない自信を椿に持たせることができるのか。  庸介は大きく息を吸うと、泣き止みかけている椿の顔を覗いた。  
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