涙の雫を笑顔に変えよう

29/38

3129人が本棚に入れています
本棚に追加
/160ページ
 長いまつげをすっかり濡らして唇を震わせている。 「もしかしたら、昨日の夜はあまり眠れなかった?」  椿は頷く。 「一度は寝たのですが、目が覚めてしまい……。いろいろ考えていたら、庸介さんの過去のことを考えてしまって。これではダメだと思って、スマートフォンでネットを見ていたら……過去のことを持ち出してウジウジする女は重くて嫌だと」  伏せた瞳からまた涙が溢れる。唇から小さな嗚咽が漏れた。ため息をつきそうになり、庸介はそれを飲み込んだ。  白い頬を転がる済んだ雫にそっと唇をつけると、すぐそばにある柔らかな椿の唇に口づけた。 「まず一つ。夜に目が覚めて眠れなくなったら、必ず俺を起こすこと」  濡れる瞳を驚いたように上げた。寝ているところを起こすなんてそんなことが出来るわけないと、そう言わんばかりの視線を庸介に向ける。 「深夜というのは、感覚が研ぎ澄まされる時間でもあるのだけれど、思考がつい悪い方にいってしまう時間でもあるんだ。だから、目が覚めたら起こすんだ。そうしたら、椿が安心して眠れるよう、いい夢が見れるよう、眠るまで抱きしめるから」
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3129人が本棚に入れています
本棚に追加