愛しい君へ、愛しいあなたへ

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「椿、そろそろメイクしないと間に合わないよ」  椿のヘアメイクをする権利だけは、なんとか死守することができた。  結局、最後までワンピースの色すらも椿は教えてくれなかった。仕方なく庸介はどんな色のワンピースにも対応できるよう、いくつかの化粧品を揃え組み合わせを考えておいたのだ。  メイクは好きだった。ベトナムであやめでいたことは嫌いではなかったし本当に楽しかった。  日本に帰ってきて女装はしていない。  自分を着飾るよりも、椿を可愛くさせる方が楽しいし気持ちも盛り上がることに気付いたのだ。  何よりも褒められて恥ずかしそうにする椿がとにかく愛らしかった。  どんなワンピースで出てくるのか、庸介はワクワクしながら、既視感を覚えた。  アオザイだ。  アオザイに着替えた椿がなかなか姿を現さなかったときと、同じだ。  今年の夏は家でアオザイを着てもらうんだと考えていると、ドアがそっと開いた。    瞬間、庸介は息を飲んだ。
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