愛しい君へ、愛しいあなたへ

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 椿の唇にグロスが乗せられた。 「よし……と。いいよ、目を開けて」  閉じていた瞳をゆっくりと開く。大きな手鏡を覗き込むと、それはそれはキレイに化粧をされた自分の顔があった。 「庸介さん、すごいです。プロです」  角度を変えて覗き込む椿の髪を整える。  毛先を少し遊ばせて、椿の用意は完成した。 「好きなんだよね、椿にメイクするの。肌もキレイだし、やっていて楽しいんだ。気に入ってもらえて良かったよ。じゃ、俺も用意してくるか」  椿は壁の時計に目を移した。 「あ! そろそろお迎えの時間ですね。間に合いますか?」  無意識だろう、セットされた髪を崩さないように指先で軽く触れている。 「男の用意なんてあっという間だよ。待ってて、すぐ戻るから」  庸介は椿の短い髪にキスをすると、唇に乗せた椿への想いが届けばいいとそう願い、リビングを出て行った。  
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