愛しい君へ、愛しいあなたへ

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「鈴木さんから連絡があって、今迎えに向かってるって。椿の準備は大丈夫?……どうした?」  ワイシャツのカフスをはめながら、脇にジャケットを抱えて歩いてくる庸介を椿は口を半開きにして見入った。  スリーピースだ、ベストを着ている。濃紺に細いストライプの入った少し光沢のある生地だ。実際に仕立てもいいのだろうが、庸介が身に付けるだけで、何割増しにも見える。  また、ネクタイがステキなのだ。薄いグレーのネクタイを合わせ着こなしてしまうところが、庸介のセンスの良さだと、椿は思った。  そして、何よりも椿の心を奪ったのは庸介の髪型だった。  耳にかかるほどの長さの素直な黒髪を後ろへとなで付けている、ラフなオールバックであった。  馨しい香りのする美しい花に惹きつけられる蝶のように椿は庸介の目の前に立った。
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