愛しい君へ、愛しいあなたへ

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 迎えに来た車はリムジンであった。外国映画のように大きな車両ではないが、椿の見たことのないような超高級車が横付けされ白い手袋をした男性がドアを開けるのには、とても興奮した。 「直木賞作家になると……こんな車が迎えに来るのですか? 私はてっきり、鈴木さんが自家用車を運転して来るものと」  シートベルトを締めながら、興奮した様子で車内を見回しレザーのシートの感触を確かめる椿に庸介は微笑んだ。 「鈴木さんは来ないよ。今頃は準備で、てんてこ舞いだろうな。今日は特別だ、映画監督の河原さんも来るし主演の津田さんも来る」 「ええっ! あのイケメン俳優の津田紀嘉も来るんですか!」  椿の驚きと興奮とイケメンという言葉に、庸介は少しムッとしたように口を曲げた。 「なんだ、椿は津田さんが好きなのか?」 「はい! テレビに疎い私でも『八年目の彼女』は毎週見ていました! とてもステキな方ですよね。芸能人にお会いしたことがないのでドキドキしますし、楽しみです」 「……今日の主役は俺だ」  そう小さく呟くと庸介は口を尖らせて車窓に目を移した。  椿はクスクスと笑うと庸介の手を握った。
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