愛しい君へ、愛しいあなたへ

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「ええ! 今夜は帰ってこないのですか?」  返ってきたのは、トーンの低い声だった。   「そうだよ。だから、今夜は……」 「着替えがないじゃないですか! 先に言ってくれれば持ってきたのに」  今度は椿が口を尖らせて黙り込んでしまった。庸介は吹き出すと、そんなことかと声を上げて笑い出した。これも良くなかったのかもしれない。 「なんで笑うのですか! 常日頃、庸介さんはきちんとメイクを落とさなくてはダメだと言っているのに、今日はきちんと出来ないんですよ?」  むくれる椿の頬を撫でると、一瞬シートベルトを緩めて頬にキスをした。 「大丈夫。着替えも化粧品もパッキングしてホテルに送ってある」 「うそ! いつやったのですか?」 「椿が風呂に入っている間だよ」  むくれるどころじゃない。椿の表情が歪み、眉の間に深いシワが二本入った。  不穏な空気に、庸介が恐る恐る顔を覗き込むと、椿は不機嫌そうにプイッと顔を背けてしまった。
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