愛しい君へ、愛しいあなたへ

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「ええと……今夜の泊まりはサプライズのつもりだったんだ。驚かせようと……」 「サプライズだから、引き出しを開けて下着や着替えを漁ったのですか?」 「漁ったわけではない」 「私に無許可でしたのですから、漁ったも同じです!」  椿が怒っている。勝手に用意をしたことで、椿をすっかり怒らせてしまった。  静かな車内を気まずい空気が流れる。 「勝手に悪かった……」  肩をすぼめると、庸介は反省した様子でうなだれた。 「いえ……私こそ声を荒げてすみません」 「予約はキャンセルするよ」  慌てて顔を庸介へと戻した椿は首を横に振った。 「ホテルは……泊まりたいです。でも……」  言いにくそうに椿は目を伏せた後に、息をふうっと吸い込んだ。 「下着を見られるのは……やはり恥ずかしいです。だから、この次はサプライズじゃなくて、きちんと声を掛けてください」  シートベルトが邪魔だ。二人を阻む。  道路交通法なんて今は忘れて、このまま皮のシートに恥ずかしそうに可愛いことを言う椿を押し倒し深いキスをしたいと、庸介の中を不埒な衝動が駆ける。  そんなことをすれば、前に運転手さんがいるのにと、また椿は怒り出すだろう。
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