3130人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめん……女性に対して配慮に欠ける行為だったよ。本当に悪かった」
椿は頷くと、桃色に染まる頬を綻ばせた。
「今日は、スピーチとかお付き合いしっかりこなしてくださいね」
「ああ」
「私、今夜はたくさん労いますから」
小声で囁くと、はにかみ目を伏せた。
「つ……!」
庸介が何かを言いかけたところで、リムジンは車止めへと進入した。
危なかった。もうすぐで言いそうになってしまった。愛する椿への気持ちを伝える術をネタバレするところだった。
運転手さんがドアを開け、先に庸介が車を降りた。そっと手を差し伸べて椿をエスコートする。
直木賞の祝賀パーティーと同じ一流ホテルのエントランスだ。
中から鈴木が小走りに向かってくるのが椿に見えた。その手前のガラスに映る自分の姿に視線を移す。
椿はまた髪に触れ引っ張った。
苦しそうに目を伏せた庸介が次に瞳を上げたとき、そこには決意の光が差していた。
最初のコメントを投稿しよう!