愛しい君へ、愛しいあなたへ

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 椿はリムジンの運転手にお礼を告げると、ホテルのロビーで鈴木に言われた通りに中島を待つことにした。  可愛らしい花の飾りの付いたパーティーバッグからスマートフォンを出すと笹川にメールを入れる。  澤山に会うのは手術前以来だ。あの時はまだ冬で、坊主にした頭をニット帽で隠していた。  手鏡を出してメイクを確認する。  庸介は手先が器用だ。  縫い物も上手で、スカートの裾のほつれなどはあっという間に直してしまう。メイクも上手い。短い髪をふんわりと可愛らしくよそいきにセットしてくれた。  けれど、やはり長い髪の方が女らしい。  椿は、育毛剤でも使おうかと考えながら、指先で髪を引っ張った。前回よりも伸びが遅いように感じる。  スマートフォンで育毛剤を検索しだしたところで、肩を叩かれた。 「椿さん」  慌ててスマートフォンをバッグにしまうと、椿は立ち上がった。 「中島さん」  長い髪を大きく巻き、シンプルな黒のドレスに身を包んだ中島が鈴木同様に目を潤ませて立っていた。相変わらず女優のようなオーラを放ち、美しい佇まいだ。
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