愛しい君へ、愛しいあなたへ

20/52
前へ
/160ページ
次へ
 周りの人も、二人に目を奪われている。  澤山はスーツ姿だが前髪を上げていた。オールバックと言うほどではないが、おでこを見せることで整った澤山の顔を際立たせている。  何よりも美しいのは笹川だ。  深紅のワンピースがよく似合っている。  有名女優かと見紛うほどの出で立ちに、通り過ぎる人は皆振り返っていた。 「笹川さん、澤山さん!」  澤山と会うのは手術前以来だ。  椿は頬を緩め大きく手を振った。 「椿ちゃん!」  笹川も満面の笑みを浮かべると大きく手を振りながらピンヒールの足で駆けだした。 「あ、笹川さん!」  転びそうだったり、何かを倒してしまいそうになったり、そのような時スローモーションのように見えるのはなぜだろう。  笹川が躓いた。体勢が前傾に崩れる。  腕を伸ばしても届かないのに、思わず腕を伸ばす椿の視界に飛び込んできたのは、転びそうな笹川の腕を掴み抱きすくめる澤山の姿だった。 「あなたは……。その靴は慣れないと話していたばかりじゃないですか。気を付けてください」    呆れたように澤山はため息をついた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3130人が本棚に入れています
本棚に追加