愛しい君へ、愛しいあなたへ

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 瞬く間に笹川の艶やかな頬は紅潮し、自分を抱きしめるその腕から逃げるようにすり抜けた。  バツが悪そうに目をそらすと、笹川は何かひとこと澤山に呟いたが椿の知るところではなかった。何を言われたのか、澤山は口元を抑えると笑いを堪えているのか苦しそうに眉を下げている。そんな澤山をひと睨みすると、笹川は椿の方へと数歩進んだ。 「椿ちゃん、こんにちは。ドレス、とても似合っているわ」 「笹川さんもとてもお似合いです」 「……ありがとう」  笹川は微妙な表情を浮かべた。そして、肩をすくめてワンピースを隠すように前で腕を組んだ。 「ほら、背筋を伸ばして。いつまでも往生際の悪い人だ。椿ちゃんも似合うと言っているじゃないですか」  笹川はだってと口を尖らせると手にしていたパーティーバッグを胸元で抱える。そんな笹川の腕を掴んで横に下ろし気をつけをさせながら、澤山は椿に微笑んだ。 「椿ちゃん、退院おめでとう」 「ありがとう……ございます」  二人を交互に見ながら、驚きを隠せない椿の横からクスクスと笑い声が聞こえた。
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