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一度だけ、大学時代の友人の集まりに行った。
椿は一生このままなのかもしれないと、そんな不安が色濃く心を支配していたころだ。眠る椿を置いて自分だけ遊びに行くことに抵抗と後ろめたさを感じ二の足を踏む庸介に、気分転換になるから行ってきたほうがいいと優しく背中を押したのは、椿の母だった。
その時の話だって、特に話すようなことはない。久しぶりに仲間に会って楽しかったと、それだけだ。
それでも、そのことを知ったら余計な妄想で悲しい思いをするかもしれないと思い、話す気にはならなかった。
話さないことが悪いのだろうか?
目が覚めたというのに、椿から笑顔が減ってしまった。
三か月間目覚めなかったという事実が、何か椿の心の中に暗い染みを作ってしまったような気がしてならない。
また以前のように笑って欲しいとそう思いながら、やっぱり人間は欲深だと、椿の髪にキスをすると目を閉じた。
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