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「映画化の話が出て河田監督と何度も話をして、主演は津田しかいないと思ったんだ。俺の頼みに、忙しいのに二つ返事で主演を引き受けてくれた。まぁ、そこそこはいいヤツなんだよ」
「なんだよ、その言い草は。俺は昔からお前には手間暇惜しまなかったと思うぞ?」
顔を見合わせると、二人は笑い出した。
どうも仲は良いらしいと分かり、椿はホッとしたように肩の力を抜いた。
「それにしても、お前、あの短時間のうちに頭丸めたのか?」
坊主頭をぐりぐりと撫でる津田にやめろと言いながら笑う庸介。その様子に椿も顔を綻ばせる。
「アラフォーのおっさんが高校球児みたいに丸めても爽やかさは演出できねーぞ」
「ばーか、そんなんじゃねぇよ。……と、椿、しばらく津田の相手をしてやってくれないか? 中島さんが呼んでるから行ってくるよ」
振り返ると離れたところにいる中島と目が合った。優しく笑いかけられて、椿も笑顔で会釈する。
「おい津田! 椿に余計なこと言うなよ。あと、触ったりとかすんじゃねーぞ」
変な釘を津田に刺す。庸介は津田に一瞥をくれニヤリと笑うと、早足で中島の元に向かい、すぐに二人は連れだって年配の男性に挨拶に行った。
「あの美人は誰だか知っている?」
「はい。高深社の中島編集長です。庸介さんの恩人だと伺っています」
「ああ……あの人が」
津田はふーんと意味深に頷くと、しばし二人の方を見つめていた。何かあるのかと不思議そうに見上げる椿に、腹が減ったとニカッと笑った。
「何か食べようよ」
椿も空腹を感じていたが、それよりも澤山のことが心配だった。でも、庸介に津田の相手を頼まれている。席に着いたらメールを送ってみることにし、津田と共にたくさんの美味しそうな料理の並ぶテーブルを目指した。
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