玉屋の椿

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玉屋の椿

昔、玉屋と言う大金持ちの男がいました。玉屋は大金持ちでしたが、とても強欲で、けちな人間でした。何時も何時も、金蔵のお金の事しか頭にありませんでした。それに非常に疑り深いお人で、常に自分の財産を誰かが狙っている……そんな妄想を抱いていました。疑り深い玉屋は人を信用できません。奉公人が当たり前にご飯を食べるのさえ許せ無い迄、心の病を拗らせている始末でございました。此処に居ては飢え死にしてしまう困った奉公人達が番頭を除く全てが逃げ出しても、お金を払わなくてすむとにんまり笑っている玉屋を、最後に残った番頭はそら恐ろしく思っていました。玉屋は親類縁者や、家族を真っ先に難癖を着けて裸足で追い出していたのです。その顛末を知らないまま、高級を払う約束で、けちの玉屋の番頭となってしまっていたのでした。最後に残った番頭の助けを借りて、玉屋はある事を思いつきます。有り金を全部見える所に隠してしまおう!金蔵のお金を全部庭の椿の下に…番頭は、逃げ出す事も出来ず。穴を掘って深く深く千両箱が全て埋まる穴を掘った頃には、虫の息となってしまいました。ようやく玉屋から解放されたのです。玉屋は全ての千両箱を自自力で埋める事も出来ず、しぶしぶ人を雇いますが、気味の悪い唄が聞こえると言って逃げ出す者が後をたちません。 ……の大臣玉屋の椿、花は白銀、葉は黄金…人の居なくなった屋敷から初めて玉屋の耳にその唄が初めてはっきり聞こえて来たのでした。 「うわあああーお前が…お前が歌って居たのか!」 其所には千両箱を埋める時、斬り倒した筈の椿が、花は白銀、葉は黄金…空っぽの千両箱の上で輝きを放って静かに歌って居るのでした。狂った玉屋の屋敷からは、何一つ見つかりませんでした。あの花は白銀、葉は黄金の椿さえも…長者のおかしな高笑いだけを残し全て無くなってしまいました。 誰も居なくなった屋敷跡にはただ沢山の花をつけた血のように赤い椿が咲いているだけでございました。 「私が知っている玉屋の椿は、そんな物語でございますよ…。」 取り調べの間、女は悪びれる様子もなく物語の粗筋を話していた。艶のある年増で、さぞや男をたぶらかして生きて来たのだろう事は、容易に伺える女であった。男は…同心に挟まれたままこの女狐の話を聞いていた。あれが…の母親何だろうか?だとしたら、ご破算にしてしまいたいのも納得する。 「じゃ辻褄が合わないではないか?何でその椿の店が相模屋なら押し込みがそんな店を狙うんだい?板子一枚下は地獄…一目千両の夢を見る。苦しい思いをしたのに船主は銭を渋ったその話が抜けて居るよ?大概にしな?此処は裁きの場所だぞ!捕まったのがわからないのか?」 へらへらと薄ら笑いを浮かべ、もう一人の若い遊女を眺めている。どうもすぐでも出してもらう気でも居るらしいが…その辺の自信は何処から来るのだろう?必要な話は大方聞いては居るが、他の手を使って見るか… 「椿の先の話を知っていると言う御仁がお前の身を預りたいと、申してな?何をやったか知らんがこのまま解き放てば、お主旗本に始末される話ではないか?あの浪人に何を頼んだか白状した方が為だと思うがね?」 あっさり、おきみと言う若い女の殺害を頼んだが、銭が足りないと足元をみられた話をした。
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