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花は白銀
「だから、いい加減にして下さい!私はもうあの家とは関係無いんです!」
勝手口で口論が始まっている…。長煙管に鼻から煙を出し如何にもな、年増女が火傷で、顔と手が酷い状態の若い娘と何やら争っている…。
「冗談じゃ無いよ!あんな外道と一緒にされちゃこっちは商売あがったりだ!あたしゃあんたの事を新しい水茶屋に推薦しようと思ってわざわざ来たんだい!勘違いしないでおくれ!椿の唄で恐喝する輩と一緒にされたらこっちが困るんだよ!」
辺りで口論のやり取りを聞いていた方がざわめく!若い娘は完全に質の悪い冗談にしか思えない。
「水茶屋ですって?それは、一体どういう訳何です?おきみは…(言っちゃ悪いが)酷い火傷で…、確かに気持ちは良い娘ですけど…。」
働いている船宿でも、可哀想だから裏方を…年増はニャッと嗤うとおきみさんではなく、交渉の相手を…騒ぎを聞いてやって来た。船宿の主に狙いを変えた。
「だからなおさら都合が良いんだよ…まあよくよく聞いて頂戴なさいましな!昼間だけでも、我慢して働いてくれたら御の字なのさ。おきみさんのためにもなる話だと思って聞いておくれよ私を助けると思ってさぁ…。夜は、船宿の方で働いてくれても、良いんだし…決して損をする訳じゃ無いからさあ…。その火傷がこっちは必要なのさ…。」
詳しい事情を説明すると、そういう話なら、おきみは最適な娘ですと、船宿の主は太鼓判を押してくれた。せっぱ詰まった金銭事情もあり、おきみは新しい水茶屋で昼の間だけ、働く事と話が決まった。
「でも私で本当に良いんですか?お客様が気味の悪い思いしたりしませんか?」
水茶屋と聞いて、船宿の奉公人達が噂の的にしたのは言うまでもない。どんな水茶屋を始めるというのか?
「涼みに来る客には、涼ませときゃいいのさ…。そんな客はこっちもいらない!あんたは、自分の思っている事をお客に話せばいい!あんたなら客を戻せると私は思っている…。だから私を助けておくれよ。最初のお客になるお人が、おきみさんと言う娘さんを紹介してくれたのさ、速くしないと下衆が利用しかねないってね…だからしくじりの馬鹿息子に代わって母親が出て来たって訳。宜しくお願いしますよ…。」
お六と言うその女は、元々水芸の太夫だったと言う。馬鹿息子が誰かもはっきりとは、言わなかった。ただ、私の水茶屋で働いてくれたら、わざわざおきみさんを探して船宿に迷惑をかける変な虫も来ないだろうと言った。おきみが水茶屋で働くと決めたのは、その事も関係していた。この勝手口の騒ぎを、こっそり見ていた者が二人
「お六の奴…余計な真似しやがって…。」
丁度お六と同じ年位の男性と、その男性を見張っている…如何にもな若い男…どちらもまともな人生から縁が少し遠い様だった。
「あの男…何であんなのがおきみさんにつきまとうんだ?お六さん本当に大丈夫なんだろうか?」
そのやり取りをもう一段違う見張りが…気にしていた。伊万里屋の若旦那、栄助と伊兵衛と言う番頭だった。
「何とか船清の主を説得して貰わないと、佐平次に援軍が行かなくなるから、頑張って欲しいんだが…。やはりあちらが手を回して居たとは、これではすぐ首になる筈だよ。」
見張っているいかにもな、人間達を伊兵衛さんは、どうやら知っている様子だった。
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