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落ちた理由
盗賊が犯罪者に落ちた理由を堂々と合理化している。其所に落ちた理由は無い!水車小屋を燃やした理由を、浪人がしどろもどろとなって話す、どう考えても腹いせにしか、成らないのに必死ではあった。その必死さを盗賊は嘲笑っていた。
「そそのかされて、一味に入れられた何て筋書きは野暮ってもんだよな?お前みたいな危ねえ奴消しにかかるのは、上等だろう?俺の酔狂な知り合いは、刀じゃ無くて木刀を使ったんだ…生憎何だが愛刀は存在しないんだよ?残念だったな…。」
相模屋が雇う訳も無い浪人が、腹いせに押し込みの一味に転がり落ちたのは、水車小屋のじいさんから、鬼平に敵討ちの打診があったからだった。
「自分が助かりたいからって、他人を騙して刀を手に入れたかった訳でも無かろが…助けられるのは子供だけだ!無謀の疑いだと?冗談じゃないが…そうして欲しいか?自分の不心得から、妻を殺害した事にされても、文句は言えんよな?」
血気盛んな若い旗本の子息を言いくるめて、浪人は刀を騙しとるつもりだったらしい…酒を呑んでは暴れる手がつけられない夫から、妻子は遠ざかっていた。その手助が最悪だった。弱味につけこんで盗賊の手先にされていた。夜鷹を拾ったばかりに…。
「妻なんて冗談じゃ無い!あの女に…騙されたのだ!だから…私はその不埒な女を成敗しようとしたそれだけだ!」
目くそと鼻くその罵り合戦
「自ら墜ちた癖に…辻斬りに大義名分が必要とは…お侍ってのは大変でございますね?あっしらも恥な盗賊ですが、こんな下衆とは一緒にされたくねぇんでさあ。たまたま相模屋に縁がある娘おきみさんが、何処に勤めても首になる可哀想な話を聞いてこっちは、手助けしようと思ったのに…、お六って子悪党な婆に横取りされたんですよ!」
浪人の恥はそれだけではない。一人で一味を捕らえようとした同心を誤って斬ってしまっていた。抜けられない蟻地獄に、自ら落ちた挙げ句盗賊の仲間入りした罪を他人に被せ、何も知らない旗本の少年達を煽動した。
「世間知らずを手玉に取るのは…楽だったか?」
居直る浪人に、鋭い声がかかる!暴動をもて甘し、自ら自身番に来た所で許される気配はなかった。
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