決戦の日

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 第9レースが終わった午後3時過ぎ。安田記念に出走する馬達が悠然とパドックを歩き回っている。マダカネキンメダルは2人の厩務員に引かれ、一歩一歩踏みしめるように歩いていた。その栗毛の馬体は太陽に照らされてピカピカに光っていた。 「そろそろだな」  午後3時過ぎ。先生はパドックを見ながら僕にそう声をかけてきた。 「はい。そうですね」 「どうだ?行けそうか?」 「勝負の前に負けることなんか考えてはいけない。先生がおっしゃった言葉ですよね?」  僕がそう問いかけると、先生は無言で頷いた。そのとき、僕の目の前を漆黒のサラブレッドが通り過ぎていった。筋骨隆々とは、まさにこのことだ。 「先生。これがサンダースコットですね」  僕は思わずそう漏らす。 「あぁ。素晴らしい馬体だな」  先生もその黒光りする体を呆然と見つめていた。 「とまーれー!」  僕たちに号令がかかる。騎乗の合図だ。 「キンメダル、取ってきてくれよ」 「はい!」  僕は不安を押し殺しつつ、力強く先生に答えた。
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