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「あ―――!!今日も残業疲れた――――――!!!!!」
街中が看板のネオンで光り輝き、一層騒がしくなる夜の繫華街。
呼び込みの声があちらこちらで聞こえ、人の賑わいが鬱陶しいとさえ思うこの場所で、人一倍声を荒げるスーツ姿の女性がいた。
化粧っ気は一切なく、髪もぼさぼさのまま。眼の下には大きく隈ができているその姿はまさしく、連日の残業で日々を追われている社会人そのものだった。
「あの上司⋯!!今日はせっかく定時で帰れると思ったのにギリギリで追加の仕事よこしてきやがって⋯!!そのくせ自分は直ぐに帰るんだから腹が立つうううう――――!!もう会社行きたくない――!!仕事したくない――!!」
片手にビール缶を持ち、もう片方には既に空になったビール缶が入ったビニール袋を持ちながら、酒の勢いでたまりにたまった鬱憤を大きく漏らす。
これが彼女のストレス解消法。言葉に出すことで自分の中に溜まっている”何か”を吐き出す。そうすることで今日の分を明日に持ち越さないようにするのだ。
無論、こんなことをしても現状は変わりない。明日になれば、会社に行かざるを得ない。仕事は山のようにくるし、理不尽な上司は相変わらず仕事を追加してくる。
それでも、どこかで吐き出されければ、言葉に出していかなければ、到底やっていけない。
人をロボットか道具かのようにこき扱き、使えなくなれば即捨てる、まさしく現代版無限地獄の世界で生き抜くには、そうするしかなかった。
「⋯⋯⋯ぷはああ~~~~!!あー、ビールがおいしいわねー!!」
彼女はまたビニール袋から新しいビールを取り出し、飲み始める。
今日は特に疲れた日だった。普段の残業ならばギリギリ終電に間に合う時間帯には帰れるのに、今日に限って新人の子が休んだりしたせいでその分の仕事が回ってきたのだ。おかげで終電を逃し、急遽夜の街をお散歩する羽目になった。
そうやって今日のことを反芻すると、また無性に苛立ちが湧いてくる。
「ああ―――!!またイライラしてきた―――!!」
周りの人から白い目で見られながら、ビニール袋の中にあるおつまみを食らい、そしてビールを飲み、また愚痴を漏らす。一種のルーティンとなった行為だが、それが彼女にとって唯一心が解放される時間である。
歩いて自宅へ向かうことになったので、アパートについたのは既に日がまたいだ3時頃。その頃には既に彼女はベロンベロンに酔っぱらっており、意識すら怪しいほどだ。
朦朧とした中で郵便受けにあるものを雑につかみ取り、階段をふらつきながらも上がり、ようやく帰ることができた。
「あ~~~!!ようやく帰ることができた~~~~~~⋯⋯⋯⋯⋯すぴ
ー⋯⋯⋯すぴー⋯⋯⋯」
家に着いたことからの安心感からか、それとも飲み過ぎたお酒のせいか。
彼女はすぐさまその場で寝に入る。
冷たい床が火照った身体を冷やしてくれて気持ちが良い。そんなことを思いながら、彼女の意識は落ちていった。
自身の手にとった、郵便受けの荷物。その中にあった僅かに光る手鏡など、気にする暇もなく。
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