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「――はっ…………!!」
瞼を開き目の前にあったのは見知った、白色のいつも通りの天井だった。
「ハア⋯⋯⋯⋯ハア⋯⋯⋯⋯⋯ハア⋯⋯⋯⋯ハア⋯⋯⋯⋯」
――あの悪夢から逃れた。
その事実を受け入れるのに、数分を要する。
もしかして今自分が見ている光景も現実ではなく、まだあの夢の続きではないだろうか。そう思ってしまうほどに、夢の中での感覚が決して忘れさせまいと身体中に残っていた。
だが時が過ぎるとその考えも薄れていき、彼女は本当の現実を受け入れていく。
ふと腕時計を見ると5時を示していた。家についたのは3時頃だったはずだから2時間しか寝てないことになる。
普段ならばここで二度寝を決め込むのだが、もう一度あの悪夢を見てしまうかもしれないと思うと、悪夢での恐怖が過ぎり眠気が消えてしまった。
「着替えるか⋯⋯」
彼女はクタクタのスーツやその他着ているものを全て脱ぎ捨てる。下着やシャツは汗でびっしょりと濡れ、とても着続けれるものではなかった。
そのまま風呂場へと向かい、2日ぶりにシャワーを浴びて身体に残った汗を流し、身体を洗う。
「はあ~~~⋯⋯。気持ちいい⋯⋯⋯」
シャワーを浴びることで自分の抱えていた不安や嫌な気持ちも洗い流されていくような気分になり、心が軽くなったような気がした。
ふと鏡を見ると、ニヤニヤとした、だらしのない顔があった。
「ふふ⋯⋯、変な顔⋯⋯」
自分の笑顔を見たのはいつ以来だろうか。思い返せば返すほど、仕事に追われて無愛想な表情を浮かべていた日々しか出てこない。
今の会社に新卒として入社してから3年経つが、休みなどほとんどない。加えて残業の多い仕事についてしまったため、ほぼ毎日家に帰ってそのまま寝て、起きて仕事へ行くの繰り返しだった。今年で自分の時間なんて取れた日は両手で数えるほどだ。
「はあ~~~⋯⋯久しぶりだな、こういう時間」
普段家を出る時間である8時。その時間までの約3時間、彼女は僅かなやすらぎを得たのだった。
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