The mirror captures you

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『まもなく電車がまいります。黄色い線の内側でお待ちください』  多くの学生や社会人で賑わう朝の駅で、いつも通り聞こえる機械音声のアナウンス。それが聞こえた十数秒後に電車が駅に到着し、降りる人を通した後、素早く大勢の人が乗っていく。  もはや現代日本における朝の風景となったその場所で、彼女もまた会社にいくために電車へと乗り込む。 (相変わらず混んでるなー。まあもう慣れたけど)  既に座席は満席なので、つり革につかまりながら時間が過ぎるのを待つ。その間、自分のお気に入りの音楽を聞くのが彼女の日課だった。   (~~~♪)   ふと電車が少し揺れ、隣の人が割りと強い当たりでぶつかってきた。ぶつかるのは電車に乗っていればしょっちゅうの事なのでいつもなら気にしない。だが、丁度曲が良いところで片方のイヤホンが外れ、そしてその人の当たりが割りと強かったので、少しムッとした。また、その人が謝りの会釈すらしなかったことも拍車をかけた。 (腹が立つなー) ―――――ムカツク。 会釈くらいはしろよと思いかけたが、言ったところでこちらに得があるわけでもない。 日本の現代人が他者に対して多少無頓着なのは今に始まったことではない。そもそも自分もその類いだ。 そう自分に言い聞かせ、ほんの一瞬高まった激情を押さえる。 ――――ユルスナ。 「あ、あの、さっきは………その、すいませんでした…………」 「え?あ、あ、はい………」 「本当に、すいませんでした……」 「はあ………」 ぶつかった数秒後、突然隣の人が謝罪してきた。よく見ると額に汗をかき、怯えるような目でこちらを見ている。 そんな怖い顔でもしていたのだろうかと疑問に思つつ、受け答えをする。 (どうしたんだろ………この人。まあ、謝ってきたし………別に良いか) その後、何故か時折周りの人にじろじろと見られながらも、会社の最寄り駅で降り、会社へと向かうのだった。
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