The mirror captures you

6/10
前へ
/10ページ
次へ
「おはようございます」 「「「おはようございます……」」」  会社へ行き、自分の部署へと行って挨拶をする。すると、いつも通りの元気のない挨拶が顔を向けずに返ってくる。  デスクに並ぶ皆の目の下には隈ができており、目は死んだ魚のようだ。  それもそのはず、全員が日々の過酷な労働、追われる仕事、超過する時間と闘ってきたからである。 「おはよう……ございます……」 「うん?」  ふと、後ろから弱々しい挨拶が聞こえたので振り返ると、そこには昨日休んだ新人の社員がいた。 新人の子はこちらを見るなり、「ひっ…」と何故か小さく声をあげていた。 ――ニクイ 「ああ、おはよう」 「はい…………あ、あの!!」 「?」 「昨日はその………、休んでしまって申し訳ありませんでした!!」  目の前で大きく頭を下げ、他の部署まで聞こえる声で謝罪する新人の子に対し、彼女は冷静な口調で返す。 ――コロセ。ニクイカラコロセ 「風邪引いていたんだったら仕方ないでしよ?風邪のまんまこられたら皆にうつるし、むしろ休まないとだめよ」 「は、はい………」 「まあ、そもそも風邪を引くなと言いたいけどね」 「はッ…!や、やっぱりまだ怒って――」 「冗談。いいから仕事するよ」 「は、はい!」  二人は自分のデスクへとつき、すぐさま仕事を始めていく。 ――ニゲタイ。ヤメタイ。カエリタイ (今日は残業がないといいんだけどな。なかったらじっくり家で飲みたいな……)  取らぬ狸の皮算用とも言うべき希望を考えながら、彼女は今日も仕事をしていく。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加